トップ対談
芸能の未来とみらい塾
理事長 渡邊万由美 × 事務局長 柴田励司
PROFILE
1995年株式会社トップコート設立。2011年より株式会社渡辺プロダクション代表取締役社長兼任。2017年一般財団法人渡辺記念育成財団設立。食と人を繋ぐ月刊誌「味の手帖」内の対談連載は25年をこえる。
株式会社IndigoBlue代表取締役会長
1962年東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒。マーサーヒューマンリソースコンサルティング(現マーサージャパン)代表取締役社長、キャドセンター代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COO、Path代表取締役CEOなどを歴任。一般社団法人PHAZE発起人・理事。
新しいエンタメを創りたい ー 渡辺記念育成財団設立の経緯
柴田万由美さん、今日はよろしくお願いします。
渡邊よろしくお願いします。いつもありがとうございます。
柴田万由美さんとはいつも一緒に仕事をさせていただいていますが、今日は改めて、渡辺記念育成財団やみらい塾にかける想いをお伺いしたいと思います。そもそもどうしてこの財団を立ち上げられたんですか?
渡邊私がトップコートというプロダクションを立ち上げて20年経った頃、これまでの自分の経験を社会にどう役立てたいのかを考え始めて、トップコートやエンタメ業界を、次の世代に繋げられる存在になりたいと思うようになりました。そんなタイミングで久しぶりに柴田さんにお会いして、こんなことがやりたいと雑談レベルでお話させていただいたんです。そしたら、「いいですね、やりましょう」と言ってくださったんです。それがきっかけになっています。
柴田そうでしたね。うっかり言ってしまったんです(笑)それは冗談ですが、ご相談いただいたときに、万由美さんの想いは本物だなと、私もお手伝いしたいと思ったんです。それで、じゃあ、どんな財団にしようかということで、現在の理事、評議員、監事、選考委員のみなさんに集まっていただいて、たくさん議論を重ねました。
渡邊はい。自分もどうやったら「芸能の未来」を切り拓いていけるのか、漠然としていましたので、みなさんに集まっていただいて意見を聞かせていただきながらこの財団の方向性を探りました。理事、評議員、監事、選考委員の方々は、個人として信頼できる人、意見もちゃんとストレートに言ってくれる人にお願いしているんです。そのことがすごく自分の支えになっています。あの方々に恥をかかせてはいけないなあと、いつも思っています。
柴田みなさん第一線で活躍されている偉い方ばかりなのに、小さな会議室にぎゅうぎゅうに押し込んで、思い思いにご発言いただきました。未来の芸能について熱く語り合う時間はとても刺激的でした。
渡邊その中で、この財団は、プロデューサー人材を育成することに決まっていったんですよね。現在でも、音楽や演劇プロデューサーを養成する学校はありますが、渡辺記念育成財団は従来のジャンルのプロデューサーに加えて、新しい発想や仕組みで、これまでにないエンタメのプラットフォームを生み出すプロデューサーの輩出を目指すことになったんです。
柴田いろんな方が応募してくれました。でも、ちょっと違うんじゃないかという方の応募も目立ちました。YouTuberになりたいとか。
渡邊多かったですね。まず、奨励生に応募してくれたことにとても感謝しています。でも、財団が求めている人材と少し違いました。私たちは、芸能の未来を切り拓いていきたいプロデューサー人材を求めていたんですが、自分自身がアーティストとして活躍したい人の応募も多かったんです。このとき、本当にたくさんの人とお話させていただいて、自分の中にある違和感がなんなのか、どんな人に来ていただきたいのかはっきりしました。このときわかったことが、今の人選びの大きな柱になっています。
目の前の課題よりも大切なこと ー エンタメ業界の課題
柴田今、エンタメ業界は大きく変わろうとしています。戦後、テレビを中心にエンタメ業界は大きな発展を遂げてきたわけですが、近年はネット環境が充実してきたこともあって、根本から変わらなければならないような事態に直面していると思うのですが、今のエンタメ業界に何か課題を感じていますか?
渡邊はい。小さな課題はあると思いますよ。例えば、国の支援を受けられる海外のエンタメは勢いがあって、日本は押されているように思うこともあります。でも、より大きな視点で見れば、状況は違って見えます。むしろ、このような状況を機に、世代交代して新しいものを生み出していけるチャンスだと思っています。
柴田課題はあるものの、小さなことだということですね。
渡邊今ある課題に憂いているほど、人生長くないんですよ。どんな業界もそうだと思いますが、長い年月の間発展しているうちに、課題は出てきます。しかし、この財団が向き合うのは、そういう目の前の課題ではないんじゃないかと。私は、これまで成熟したエンタメの世界でさまざまな経験をさせていただきました。そんな経験をしてきたからこそ、新しいものをゼロから生み出したいと思うようになったんです。それが財団の役割だと思っています。
柴田業界そのもの、エンタメのあり方そのものを、次のステージに進めることで、課題が課題でなくなるということですね。課題一つ一つ捉えるより、先に進んでしまえと。
渡邊そうです。自由度があるこの財団じゃないとできないんです。なんにもカチッとしたことが決まっているわけじゃないですから。財団は、子供の遊び場みたいにしたかったんです。みんなで、どろんこになれる場所をつくりたかった。この財団だったら、自由に失敗できるじゃないですか。
柴田この財団では、エンタメ業界の第一線で活躍している素晴らしい方々に、少数の塾生相手に対話、講義してもらっています。普通に考えれば、贅沢すぎます。このような学びの場では受講生は授業料を支払って勉強するものですが、渡辺記念育成財団では、逆に奨励金までもらえる。やりすぎですかね(笑)
渡邊そう言われれば、そんな気がしてきました(笑)やりすぎかもしれません。
柴田なんでそこまでしようと思ったのですか?
渡邊やっぱり、やる気と才能のある仲間と一緒に、新しい価値観を世に送り出していきたいからですね。そのために今の自分にできることは、全部やろうと思っています。ゲスト講師の皆さんにも、本当に忙しい時間を縫ってお越しいただいて、感謝しきれません。でも、そうやって来られた講師のみなさんも、「新しい刺激があって、今日来られて良かった」「楽しかった」と言ってくださって、そのたびにホッとします。
柴田ゲスト講師のみなさんには、本当に頭が上がりませんね。塾生たちがもがいているからこそ、刺激し合えるんだと思います。
枠を越えた活躍に期待 ー みらい塾の未来
柴田2017年に財団を設立し、翌年みらい塾はスタートを切りました。振り返ってみていかがですか。
渡邊みらい塾の1期生は、どんなことが待ち構えているのか、すごく不安だったと思うのですが、私たちも同じ1年生で、実際どうなるのかわかっていませんでした。本当にこれまでにない新しい試みだったからです。しかも、先生と生徒のような主従関係にあるわけでもないので、同じ船の乗組員としてがんばっていこうという思いでした。たしか、そんなことを1期生には話したと思います。
柴田私たちも、この財団やみらい塾をどうすべきか、試行錯誤の日々でした。活動を通して、気がついたのは、時代よりちょっとはやいところを歩いているってことです。
渡邊そうかもですね。
柴田2018年「AI」、2020年「地方創生×エンタメ」も、2021年の「耳」も。時代の少し先を行く活動を、万由美さんは狙っているんですか?
渡邊いいえ。私は直感型なんで、これが今は必要かもと思ったことを、柴田さんと事務局の大野さんに伝えてみるのですが、そうしたら散らばったパズルをきれいにはめるようにプログラムを組み立ててくれる、そんな感じです。
柴田あはは、同じ方向を向いているので、やりたいことがわかるんですよ。
渡邊そして、実際に活動しているのは奨励生たちです。第3期生は、福島県会津磐梯で「地方創生xエンタメ」をテーマとした短編映画をつくる課題で、地方を応援したい、でも従来の観光フィルムだけにはしたくない、さらに新しいショートフィルムやプラットフォームを作ろうと言い出して。私たちはそれに必要なことを少し手助けしただけです。そうして出来上がったのが『YELLOW』ですね。ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2021で、幸運にもジャパン部門に入選しました。コロナ禍の中、もがきながらも撮影に挑み頑張れたのは、彼らの作品に対する真っ直ぐな熱量と、指南役の本田勝之助さん、あたたかい福島のみなさんのおかげと心から感謝しています。
柴田本当に素晴らしい成果を残してくれました。卒塾生の現在の活躍の様子は聞いておられますか?
渡邊卒塾生の様子は、風のうわさに聞いています。LINEつながってますし(笑)
柴田塾生は個性的な人が多いですね。誰一人キャラがかぶらない。塾是に「和を大切に」というのがあるんですが、入塾してこられたみなさんには、この和というのは和太鼓でなく、オーケストラだと話しています。和太鼓はよく似た音をみんなで叩いて演奏しますが、オーケストラは全く違う楽器を演奏して、それでも調和が保たれている。みらい塾は、オーケストラを目指したい、そう伝えています。
渡邊たしかに、そうなっていますね。本当に違う音色が聞こえてきます。みんなが個性的で、ぜんぜん違う楽器だから、音に厚みを感じるんです。
柴田普通、学校では同期の絆が強く働きます。財団では何期生かという横のつながりだけでなく縦のつながりも強い。縦糸のつながりを使っていろんな活動を継続することで、どんどん新しいものが生まれてくることを期待したいですね。
渡邊そうですね。すでに始まっていますが、みらい塾の卒塾生たちと一緒に新しいことに挑戦していけることも、これからの楽しみです。そうやって、それぞれの持場での活動を通して、みらい塾は、一つの大きな夢を実現する方向に向かって行けることを願っています。財団のロゴは、たんぽぽの綿毛です。これから風に乗って、世界で活躍してもらいたいですね。
未来の奨励生へメッセージ
柴田最後に、これから奨励生に応募しようとしている人にむけてメッセージをお願いします。
渡邊みらい塾の活動を通して思ったのは、エンタメの仕事って、人を楽しませるだけじゃないってことです。人を楽しませることで、自分の人生もより豊かになっていくんです。ゼロからイチを生み出して感動をプロデュースすることは、とても大変なことです。山あれば谷ありで艱難辛苦乗り越えないといけない。でも、それを乗り越えて多くの人に感動を届けることは、何物にも代えがたい喜びです。苦労をいとわず人を楽しませたいんだという方に、ぜひ挑戦していただきたいと思います。
柴田ありがとうございます。渡辺記念育成財団では、未来のエンターテインメントを生み出していくためのクリエイティブプロデューサーを育成する活動を行っています。みなさんからのご応募、心よりお待ちしております。
卒塾生のコメント
みらい塾を振り返って
第1期奨励生
吉原 早紀
電子機器メーカー勤務
早稲田大学文化構想学部卒
慶應義塾大学大学院修了
1期生の募集を見て「これは挑戦するしかない!!」と興奮しながら応募したのを覚えています。
働きながらの活動は大変でしたが、企画を考える上で色々な視点が持てて良かったです。
各業界で活躍する一流講師の方々に直接プレゼンをさせていただき、代え難い経験のできた1年間でした。
第2期奨励生
陳 啓翔
株式会社ポケモン勤務
東京大学大学院総合文化研究科修了
僕にとってみらい塾はエンタメのことをわが身にたたきこむ「道場」でした。一流講師に全力投球し、仲間たちと切磋琢磨する日々の中で、エンタメと自分自身のことを問い直し続けてきました。ここでの経験と出会いが今の自分をつくったと感じています!
第3期奨励生
栢木 琢也
東宝株式会社勤務
法政大学理工学部機械工学科卒業
みらい塾でしか得ることのできない出会いがたくさんありました。業界屈指の講師陣と次世代をリードするであろう個性豊かな仲間たち。多くの刺激と学びを得て、短編映画製作という形でそれらを発揮する機会も頂きました。チームで一丸となって作り上げた作品がSSFF&ASIAにノミネートしたことは自信になりました。